ダライ・ラマ法王

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ダライ・ラマ法王記者会見 全文

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(2008年4月10日 ヒルトン成田にて)

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ダライ・ラマ法王:

私からは特に何もございません。こちら、日本には立ち寄った次第です。この後、アメリカを訪問する予定です。これから2週間かけてです。

主にいつもそうであるように、私は3つのコミットメントを掲げて参ります。

その一つ目、人間として、人間の価値を推進しに参ります。価値とは何なのか、それは思いやりのある心(慈悲心)でございます。信者であろうがなかろうが、我々は人間である限り、体があります。ですから、思いやりのある心を持つこと、そうすれば、より調和の取れた心身となります。思いやりのある心を持てば心身ともに健康になります。

科学者も、実は、研究をしていると伺っています。明らかな証拠があるということです。心の平和というのはとても有意義だということです。心身の為になるということです。それが一つ目のコミットメントです。人間の価値を推進したいと思います。良識、経験、そして科学的な研究結果をふまえての推進となります。

二つ目のコミットメントですが、仏教の僧侶として、私は、調和、様々な宗教間で推進して参りたいと思います。

今回のアメリカ訪問の主な目的は、向こう2週間、この2つのことを推進して参ります。

そういったことから、本質的に政治的な目的ではありません。そこで日本に立ち寄りましたが、特に申し上げることはございません。

とはいっても、皆様、ここに大勢いらっしゃいました。好奇心からなのか、それとも懸念をお持ちなのか、なぜいらしたのかは様々な理由があると思いますが、いずれにしても揃っていらっしゃることは確かです。そういったことで、(これからの時間は)皆様にお任せします。こちら側から、いかがでしょうか。

 

質問者A:
ありがとうございます。ご指名いただきまして。TBSニュース23の後藤謙次と申します。今世界各地で北京オリンピックの聖火リレーをめぐって大きな混乱が起きていますけれど、これについて法王はどうお考えでしょうか?

ダライ・ラマ法王:

最初から私は、そもそも当初から、中国があの有名なオリンピックゲームを主催することを支持して参りました。といいますのも、中国というのは世界で最大の人口を有しています。また古くから在る国家であるからです。そういったことから、主催国になることは当然のことだと思います。最近のチベットにおける残念な出来事があったにも関わらず、私の考えは変わりません。

それこそ、トラブルがロンドンやパリで起きました。これを受けて私はメッセージを出しました。サンフランシスコにいるチベット人に対してです。決して暴力的な行為はしないで欲しいと言いました。
気持ちを表現することは自由だと思います。誰も「黙れ」という権利は持っていないと思います。それは個人の権利だからです、そうですよね。

それこそ、チベット問題の原因の一つは言論の自由がないからです。それが諸悪の根源です。ですから我々は民主主義を推進し、言論の自由、考えの自由を推進しています。そういったことから、チベット人の中でも私のことを非難する人もいます。私はそれを歓迎します。非難する権利を持っているからです。私は彼らに「黙れ」という権利はないのです。

一方で表現の仕方は非暴力的であるべきです。それは申し上げました。
それこそ、おととい、私はこのようにメッセージを出しました。でも昨日起きたことは私は実は(まだ)知らないのです。昨晩、デリーから飛んで来て眠っていましたから、サンフランシスコの状況は把握していません。

 

司会者:中国のオウさん、どうぞ。

質問者B:
ニンハオ。

ダライ・ラマ法王:

ニンハオ。ニンハオ。

 

質問者B:
私、自由アジアのオウです。去年、一緒に法王様と会いました。今、そういうことあって、信じられないことありました。法王様、中国人に対して、まだ何か、アピール、意見はありますか。

ダライ・ラマ法王:

危機の起こった直後、チベット自治区に入って、一部の人たちは我々が反中国だという印象を作り出したのです。ですから私は、中国の兄弟姉妹に訴えをしました。世界中の中国人、特に中国の方々に対してです。既にこの紙を受け取っていらっしゃると思いますが、私は訴えをしたんです。それを繰り返します。我々は反中国ではありません。我々は中国の一部として、チベット自治区が留まることを決意しています。ですから、経済的な発展に関する限り、私たちは大きな利益を得ることができるのです。

一方で我々は非常に独特の文化的遺産があります。言語も、非常に豊かな仏教のナーランダの伝統も含まれています。すべての人々がチベット仏教はこのナーランダの伝統の純粋な仏教であることをよく知っています。ですから、チベット文化、チベット仏教、チベット言語を含めて、すべてが600万人のチベット人の利益、関心というだけでなく、中東アジア、中央アジア地域のすべての人の関心事なのです。そして、そのほかの世界の地域についても同じことが言えると思います。

ですから、このチベットの独特の文化的遺産、チベット仏教を保存してゆく為に、チベットには真の自治が必要なのです。それは国防や外交、そしてその他の懸案については、チベットはより良い仕事ができると思います。チベットは全面的な権威をチベット仏教の保存、文化、教育、環境などにおいて持つべきだと思います。

ですから、私はこれを通常、中間の道(中道)と呼んでいます。現在の状況ではなくてです。すべての重要な決定はチベットが行なうべきなのです。中国の人たちは、チベットの文化については全く知識を持ちません。そして残念なことに指導層の一部はチベット仏教は分離の脅威となっていると考えているのです。

ですからこのために多くの制約を設けています。その現実に従えば、自治というのは言葉だけのものにすぎません。紙の上だけのものなのです。

チベットの地域、領土、自治が行なわれることになっています。チベット自治区と呼ばれています。自治の地方、自治の県、自治の郡と言われています。この地域の非と立ちは、自治が行なわれるべきなのです。そうであれば、こんな事件がおこるはずがありません。自治というのは名ばかりのものなのです。誠実に現地で実行されていないのです。

ですからこうした自治区のチベット人は非常に憤りを感じているのです。この深い憤りの表現がこの抗議デモなのです。我々は純粋な自治を求めています。ただ独立を求めているわけではありません。それを指摘したいと思います。

もう一つはオリンピックです。先ほど申し上げたように、当初から我々オリンピックの開催を支持して参りました。

これが主要なメッセージです。中国の兄弟姉妹に伝えたいメッセージです。特に中国本土の中国の方々に知っていただきたいと思います。

政府のレベルにおいて、我々、私を悪魔のように呼んでいるのは非常に残念なことであります。
でも大丈夫です。私は人間であることをわかっていただけると思います。悪魔でないことを願っています。あなたが判断して下さい。私に角は生えていません。
(両手の人差し指で角のようになさって、会場からも笑いがこぼれる)
ですから、何といってもいいんですけれど。
私は本当に悲しく感じています。中国本土の中国の人たちが中国政府の情報に頼っています。この罪のない兄弟姉妹が、ダライラマは本当に悪い人間だ、と考えているのです。
本当に悲しいことだと思います。

ですから、どうぞ私を助けて下さい。
世界中に対し、特に中国の人々に対し、ダライラマは独立を求めているのではない、と伝えて下さい。ダライラマはそれ程悪くない、と伝えて下さい。(再び笑い)

そして中国の当局が次のように言いました。ダライラマがこのような危機を画策したと言っています。これは深刻なことだと思います。そういったことから、即座に国際社会に訴えました。調査をやって欲しい、と。すぐに行なって欲しい、と。ダラムサラを含めてです。来て下さい、確認して下さい、徹底的に調査して下さい、と言いました。

そして、我々の知る限りでは、数百の人々がチベットの様々な地域で殺されました。3月10日以来です。また少なくとも、数千人が逮捕されました。そういったことから、徹底的な調査、またはいわゆる中立的な尊敬されている独立機関が調べるべきだと思います。

二つ種類があると思います。もしかしたら人によっては略奪したり、何らかの犯罪を犯したりする者がいます。こういった人たちが、ひとつ、います。こういった犯罪者というのはこういった混乱した状況につけこみます。つけこんで略奪行為などに走ります。こういった人々に対しては、法律に沿って罰せられるべきだと思います。

しかし、一方で、政治的な動機を持つ者たちもいます。非暴力的な抗議を行なう者たち、こうした人たちは、犯人とよばれてはならないと思います。

このように二者を区別することはきわめて重要だと思います。そして尊敬されているような弁護団などが、調査すべきだと思います。

皆様とこういったことを共有したいです。同意して下さるなら、共有頂ければと思います。共有しないならば、今言ったことは忘れてください。(会場からも笑い)

 

質問者C:
フランスの放送局RTLからの者です。本日はお越し頂きましてありがとうございます。次回は是非、東京の外国人記者クラブにいらしていただければと思います。
私の質問は昨今、ヨーロッパにみられる団結力の不足についてです。意見の衝突がチベット問題を巡り起きています。イギリス、フランス、ドイツの間においてです。ヨーロッパ勢に何かございませんでしょうか。政策面の統一、オリンピックの開会式などの、政策統一について何かご意見を頂ければ幸いです。

ダライ・ラマ法王:

ヨーロッパ勢は完全に個々の自由を謳歌していると思います。EUの中においてです。意見の相違、見解の相違は彼らの権利です。基本的には私は、ヨーロッパ、EUの精神を評価しています。共通利益に関する関心、懸念をお持ちになっています。これは本当にすばらしいアプローチ、現実的なアプローチだと思います。そういったことがいえると思います。それ以外については、意見の相違というのは彼らの権利だと思います。

もちろん、多くのヨーロッパ、EUの加盟国が、ご指摘のように、ドイツ、イギリス、フランスの皆様が、心からの懸念を最近の出来事に対して示してくれたことに感謝しております。

 

質問者D:
日本にようこそ。中国政府は、ダライ・ラマ法王さえいなければ、すべては安定するかのようなコメントを出していますが、そういうコメントの影響を受けて、ダライ・ラマ法王の身に危険がおよぶというような可能性や、脅しのようなものはあるのでしょうか。
もう一つは、日本の政府、政治家は、中国に非常に遠慮しているような感じがするのですが、日本の政府、国民に対し、メッセージがあればお願いしたいと思います。

ダライ・ラマ法王:

3月10日の後すぐに、私はアピールを行ないました。多くの関係機関、首脳など、ロシアのプーチン大統領も含め、日本の総理も含めて、多くの方々にアピールを行いました。公の場でアピールをしたこともありますし、このような非公開の場所でアピールしたこともあります。非常に皆様、懸念を示してくださいました。

皆様に申し上げたいのは、もしチャンスがあれば、チベットにいらして下さい。そして、チベットを見て周り、世界に対し、そして本土の中国人に対して、何が本当に起こっているのかを伝えて下さい。残念なことですが、この公の機関による発表、説明というのは、かなり歪曲された情報であることが多いのです。ですから、これによって、不必要な誤解が生まれることがあります。

ヨーロッパの方。

 

質問者E:
ありがとうございます。短く質問します。イタリアについておっしゃいませんでしたが、イタリアの人々もあなたを心から支持しています。

ダライ・ラマ法王:

会いましたか。

 

質問者E:
はい。ダラムサラでお会いしました。ダラムサラで数週間前、中国指導部からの招待は受け入れる、と延べられました。奇跡が起これば、オリンピック開会式の招待を受け入れますか。

ダライ・ラマ法王:

開会式ですか。そうですね。これは現地の状況によると思います。事態が改善され、中国政府が現実的なものの考え方をするようになるのであれば、私は、個人的には是非、オリンピックの開会式を楽しみたいと思います。

あと、少し、まだ時間がありますよ。5分あります。

 

質問者F:
TBS TVの奥野と申しますが、オリンピックの前にすでに大きな暴動などがおきていますが、終わったあとも中国はかなり力を持つと思います。その後、法王によって、何か希望のようなものはありますか。
またもし日本の首相に何か言いたいことがあればおっしゃって下さい。

ダライ・ラマ法王:

いいえ。状況を見守りたいと思います。
チベットの人々が明確な表現、明確な意見の表現ができるようになれば、また同時に他の自治区、ウイグル自治区がありますね、新彊ウイグル自治区と呼ばれています、こちらでも、一部の人々が、憤りを表明しています。
ですから中国政府が現実を受け入れる時が来たと思います。そして、現実に沿って解決を見出して欲しいのです。危機が起きる度に暴力的な抑圧をするというのは、旧式なやり方です。もう時代遅れなのです。

第二に現実的なアプローチを取るためには、現実を知らなければなりません。ですから、自由な情報の流れが必要なのです。透明性が不可欠です。今、21世紀です。すべて透明にすべきなのです。国家機密、こうしたやり方は時代遅れです。こうした慣行によって生まれるのは疑念だけです。疑念というのは、調和の取れた社会を開発してゆくにあたって、最大の障害になります。

調和の取れた世界は信頼に基づかなければなりません。信頼というのは、相互の尊重、平等、透明性そういったものによってもたらされます。これが調和の取れた社会の発展の基礎となるのです。
そして、中国の良いイメージを広げてゆかなければ、超大国にはなれないでしょう。超大国になるためには、道義的な権威というものが非常に重要となります。

現実的なアプローチを長期的に取らなければなりません。チベット、あるいは新彊ウイグル自治区だけの利益だけではありません。これは10億人あまりの人々の利益なのです。中国自体の利益となります。中国は世界でも人口の最も多い国です。そして、論理的に考えて、前向きな貢献を、より良い世界の為にできるのです。そのためには道義的な権威というものが、欠かすことはできません。それが私の考えです。

そして皆様マスコミの方々は非常に重要な役割を担っていらっしゃると思います。

以上